通常の体外受精では、受精および培養後に胚(受精卵)を子宮に戻す際、形態的に良好に見える胚、または成長過程でより正常な分割をしている胚を順番に体内に戻していきます。しかしこれはあくまでも“見た目”として選んでいる為、その胚の遺伝子までは確認出来ておりません。
よって、状態の良い胚を移植しても妊娠しない、着床胚の遺伝子が正常ではなかった為に着床しても初期流産を引き起こした、という事が体外受精でもおこり、出産されるまでに初期流産を経験する事は珍しくありません。
胚を身体に戻す前に、遺伝子的に正常か否かを確認する事が出来る検査、これが着床前診断と呼ばれるものです。
PGT-Aとは
PGT-A (Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy) とは、体外受精によって得られた胚の染色体数を正常か否か、移植する前に調べる検査です。年齢が上がるにつれ、異常な数の染色体を持つ胚の割合が増え、初期の流産率が増加します。PGT-Aは年齢因子に伴う流産を未然に防ぐ為の有効的な検査方法です。
一方、デメリットとして、PGT-Aを受ける為には不妊症でなくとも体外受精が必要となり、出産までの費用と時間が掛かります。また、検査の結果は100%正確ではない事、検査後に必ずしも正常な胚が見つかるとは限らない事、等が挙げられます。
検査方法
卵子と精子を顕微受精により受精させます。受精卵を培養し、5-6日目に胚盤胞となった胚から、一部の細胞を採取して、検査に使用します。細胞の採取後は、検査結果が出るまで胚を凍結保管しておき、検査結果で正常だと判定された胚のみを子宮に戻します。
遺伝子診断自体は体外(培養室)で行う為、患者様の身体への負担はありません。
PGT-A 適応の患者様
- 35歳以上である
- 流産歴がある
- 体外受精の移植において反復不成功例がある
- 重篤な男性不妊である
上記に該当しない場合でも遺伝子診断をご希望の患者様のご相談は受け付けております。
遺伝子診断の費用
PGT-Aの費用は、31,600HKD (胚盤胞2個までの費用)となっており、2個以上の場合には、胚盤胞1個毎に8,800HKD追加となっております。(2020年6月現在)
よくある質問
- 遺伝子診断により全ての胚が異常だった場合、移植は出来ないのでしょうか?
診断結果が異常となった場合には移植を行う事が出来ません。異常と判断された胚を移植すると、妊娠しない、早期の流産を引き起こす可能性が高くなります。診断結果を元に、どの染色体にどの様な問題があったのかを説明させて頂いております。 - 男女の産み分けに遺伝子診断を使用する事は可能でしょうか?
香港では遺伝子診断を男女の産み分けに使用する事は法律で禁止されている為、産み分けは出来ません。 - 過去に初期流産をした事がある為、遺伝子診断を希望しています。過去の診断書は必要でしょうか?
いいえ、過去の診断書は必要ありません。初診時に流産歴について伝えて頂ければ問題ございません。 - 検査結果はどのくらいの期間でわかるのでしょうか?
遺伝子診断を受けられる場合には、遺伝子診断のカウンセリングを受けて頂き、同意書にサインをして頂きます。その後培養室で日程を調整し、おおよそ1週間〜10日以内に遺伝子診断を行います。検査結果は遺伝子診断を行った日から11-12日(営業日)でお渡ししております。その為、同意書にサインを頂いてから、合計で3-4週間程をみて頂いております。 - 遺伝子診断を受けた場合の成功率はどのくらいでしょうか?
当院で通常の体外受精を用いた場合の40歳以上の患者様の妊娠率は、胚盤胞の移植1回あたりおおよそ25%程度となり、流産率は30%程になります。一方、遺伝子診断で受精卵が正常と認められて移植した場合の妊娠率は、母体に不妊要因が見当たらない場合にはおおよそ70-75%となり、流産率は10-20%と有意に低下が認められます。
PGDに関して
ご夫妻の双方、または一方が何らかの重篤な遺伝子疾患を持っている場合、その遺伝子を受け継がない様にする為に行う遺伝子診断となります。反復流産や習慣流産の患者様は血液検査を行って頂き、診断後に染色体の転座等が発見された場合には、PGT-Aではなく、PGDの適応となります。